2012年10月19日金曜日

JHETTさん&チワワさん1(二人に共通する問題)

本日はご来店有り難うございました。



日本人のピッチングを見慣れた目には、彼等のフォームは変則的なものに思えるかもしれません。しかし、ペドロ•マルティネスやジョニー•クエトを良くご存知の方なら、解ると思いますが、こういったフォームは今のMLBでも一つのトレンドと言えるべき、最先端のものなのです。そして、これこそがパンチャータイプのど真ん中を行くフォームです。もちろん、変則などではありません。それどころか、今後の主流ともなり得るフォームです。

今期19勝を記録したジョニー•クエトのフォームを見てください。この投手の投げ方を見て、それだけの投手だと看破出来る人は少なくとも日本には少ないと思います。
http://www.youtube.com/watch?v=e8gBcNPEZTw&feature=plcp

その他、如何にもパンチャーと言ったフォームを挙げてみます。

フェルナンド•ロドニー 
今期48セーブ。脚の挙げ方が小さく、極めてセット始動に近い。
http://www.youtube.com/watch?v=iKHeAs8qOKw&feature=plcp

ジョナサン•パペルボン
通算257セーブ、今期42セーブを挙げた元レッドソックスのクローザー。マイケル中村を彷彿とさせる。
http://www.youtube.com/watch?v=ag3jtcp3dk4&feature=plcp

ナフタリ•フェリーズ
2010年に40セーブを挙げたが先発に転向した。ペドロの影響を色濃く感じさせるフォーム。
http://www.youtube.com/watch?v=XqzOqtkwZR8&feature=plcp

ジェイク•ピービー
ムービングファストボールの鬼。2007年には19勝でリーグ最多勝。実績充分のスターター。
http://www.youtube.com/watch?v=EgmRIPb9kcI&feature=plcp
かと思えば緩急の差も使える。
http://www.youtube.com/watch?v=p3KhiFXCNGs&feature=plcp

これらの投手は非常にパンチャーらしいです。

さて、JHETTさんとチワワさんですが。

前述しましたように、二人とも非常にパンチャーらしい、これぞパンチャーと言うフォームです。ここまでのパフォーマンスを発揮して頂いた事に感謝すら憶えるほどです。

と言うと、大袈裟な表現になりますが。それもあながちお世辞では無いのです。より大きな視点の「投球技術」と言う観点から見ると、二人ともまだ素晴らしいとは言えません。しかし、パンチャータイプと言う観点から見ると、芸術的とも言えます。

音楽で例えると、誰もが素晴らしいと認める名曲ではない物の、繰り返し聞く事でクセになるようなマニアックな楽曲のような良さが有るのです。実際、そういう動作の動画は見れば見る程、味が出て来て、何度も繰り返して見てしまいます。二人の動画もそういう動画です。

では、本題に入ります。

実は、二人ともメインとなる問題点は共通しているので、まずはそこから書きます。

まず、次の動画を見てください。ジェームズ•シールズと言うパンチャータイプの投手です。(ジェームズ•シールズ 成績

http://www.youtube.com/watch?NR=1&feature=endscreen&v=iherJtA9_Yk

特に0.19からのストレートを見ると、始動時の下半身の力が強い事が解ります。

次に0.28からの斜め横からのシーンを見てください。(この角度なので割れが強調されて見えますが)後ろ脚股関節が割れた状態から絞られる時、股関節伸展によって強力に地面を押している事が解ります。地面を押す力が強いので地面反力も強く、その力が重心移動のシーンで体を持ち上げるので、重心があまり低くなりません。

パンチャータイプの始動時に発揮される股関節伸展の力は非常に強力です。下の写真は、その状態を良く表現しています。(巨人 アルバラデホ)

下のイラストも、それを表現しています。

まず、JHETTさんもチワワさんも、この始動時の下半身の力が弱いです。そして、その理由の一つが、重心移動の初期に股関節の割れを充分に形成出来ていないからです。(写真)

そして、この後ろ脚股関節の割れは、投球腕のテークバックとも密接な関係が有ります。下の写真のように、投球腕が肘から挙る動作が割れ絞り体操の時の腕の振りのような役割を果たし、その結果、後ろ脚股関節に沿って捻りが生じて、後ろ脚股関節が割れるわけです。

それに加えて、重心移動は、その初期において、落下の成分を大きく含みますから、滑り台を滑り落ちるような軌道で重心移動が始まる時、その運動を受け止めて後ろ脚の股関節が割れるのです。


これら二つの要素が後ろ脚股関節の割れを形成する大きな要素です。滑り台を滑り落ちるような重心移動と、その重心移動と反対方向に引かれる投球腕のテークバックで、前の「足」から後ろの肩の対角線上に反りを形成するような動作が生じ、その結果、後ろ脚股関節に被さるように骨盤が前傾するので、後ろ脚股関節が割れるわれです。ただし、股関節が割れるシーンではまだ反りは生じていません。そういう方向に動いていると言う意味です。(股関節の割れと、骨盤前傾の関係 噛み合わせ)



この股関節の割れが形成出来てこそ、その後の股関節の絞り、つまり伸展によって強力に地面を押す動作が得られます。それについては動きでないと説明が難しいので、動画で説明します。


股関節伸展とは、体に反りを生じさせる動作ですから、それによって胸が張り、胸の張りが肩関節の外旋を助長します。また、重心移動の過程で良い意味で投球腕の肘が背中側に入り「肩が入る」状態も、股関節伸展に伴い、胸が張って来ると自然と形成されます。

このあたりの事がJHETTさんとチワワさんのフォームに欠けているのです。

つまり、このシーンで体の後ろサイドに力を発揮する準備が出来ているかどうかと言う問題なのです。もっとも写真は静止状態で作ったものなので、実際のフォームとは少し違いますが、要は重心移動の過程で後ろ脚股関節が割れるい形や、投球腕の肘が背中側に入り、胸が張る形などが出来ていれば、球速も挙ります。



そういう視点でクレイグ•キンブレルとアロルディス•チャップマンの両豪速球投手の動画を見てください。

クレイグ•キンブレル
http://www.youtube.com/watch?v=aWO9kaaltdc&feature=plcp
アロルディス•チャップマン
http://www.youtube.com/watch?v=cAlnLfkppm0&feature=plcp

特にチャップマンは後ろサイドの力が凄いですね。これが豪速球の秘密です。

このようなチャップマンやキンブレルのような形を作るには、以下の点が重要になります。

★まず前提として股関節の割れと絞りの動きをストレッチを通して磨く事。
★大腿四頭筋が緊張していると股関節が割れにくいので、踵でトントンする動作等により骨で立つ感覚を掴む。
★肩関節が柔軟で内旋、外旋の深い「肩の入った」テークバックが取れる事。そのために、腕回し等のストレッチやシャドウピッチングも必要。シャドウはオートマチックステップドリルが単位時間内に多く腕を振れるので効果的。
★バットを使った外旋ストレッチ等で、外旋の柔軟性を向上させておく事も「肩を入れる」ために重要。その後は内旋ストレッチや腕回し等の動的ストレッチ
★股関節を割った状態からの絞りはイコール股関節伸展なので、ハムストリングスの力を上手く使えるよう「リズム股関節伸展スクワット」や「腸腰筋その場ステップ」等の黒人化トレーニングを重点的に行う必要が有る。また、そういったトレーニングの中で、ハムストリングスが使えている感覚、使えている時の体の動きなどについて理解していく必要が有る。
★割れ絞り体操の応用で、タスキラインに沿ってパンチを打つ練習なども、割れた状態からの絞りを行えるので効果的。
★重心移動の初期に過度にヒップファーストを強調しない方が、後ろ脚股関節の割れを形成しやすい。


等がポイントですね。

基本的には、「肩肘の柔軟性を向上させつつ、股関節伸展能力の向上を伴いながら、割れと絞りのストレッチを重点的に行う」と言う路線で行くのが良いでしょう。加えて、フォーム的には「始動ポジションで骨立ちの状態を作れる」事が重要になります。

続きます。

次にこれまた、二人ともに共通する課題なのですが、腕の出所がやや低すぎると言う事です。もちろん、パンチャーはスリークォーターになるのが基本なのですが、それにしても少し低過ぎます。これはやはり肩関節の外旋が不十分だからで、外旋が充分だと、もう少し腕の出所は高くなります。

MLBのパンチャーの投手でもテークバックで内旋が深い投手は、その後の外旋も深くなるので、そうした投球腕の回旋運動を上手く使えている場合、腕の出所はもう少し高くなります。例で見てみましょう。

チャーリー•ファーブッシュ
http://www.youtube.com/watch?v=sqr9tAsdkb4&feature=plcp
クレイグ•キンブレル(特に最後の一球)
http://www.youtube.com/watch?v=p21AjwFJrx4&feature=plcp

それに比べると、ペドロは少し低いですが、それは少し自分の筋力でグラブとボールを割っている分、アーム気味になっているからで、肘を痛めたのもそのためでしょう。ペドロだから全てが理想的と言うわけでは有りません。因に投手の人なら、この割り方からの、この腕の振りを見て、自分の肘が痛くなりそうな鋭い感覚が欲しいものです。


ナフタリ•フェリーズもペドロ•マルティネスに非常に良く似た投手ですが、そのへんに関してはペドロよりも上手くやってますね。そのぶん腕の出所もペドロよりやや高くなっています。この腕の出所もパンチャーの理想に近いものが有ります。
http://www.youtube.com/watch?v=3DQ_iYuNd28&feature=plcp

二人の腕の振りを見ても(解りやすくするために、あえてカッコ悪いコマばかり集めました。)肩関節の外旋角度が小さく、肩が入っていない事が解ります。

例えは悪いですが、二人共、腕の振りがパンチと言うより、女性のビンタのようになっているのです。女性のビンタでは、手首を背屈させるので、前腕が回内気味になり、肩関節が外旋しにくいので、肩が入らず、力が加わらないのです。(下のイラストの4コマ目、肩関節が外旋し、ボールが隠れたカットが肩が入った状態を表します。)
尾崎行雄 昔のパンチャー豪速球投手

始動時の下半身の力を、上半身の加速に活かす際に、肩関節の外旋が重要になります。肩関節が外旋していると、そのぶんボールが後方にポジションし、胸が張るので、腕の振りに下敷きの原理を有効に活用出来るのです。



先行して体を回転させる事で、後発部位となるボールとの間に「下敷きのしなりを大きく」を作る事こそ、下半身動作の最終的な意味です。ところが、肩関節の外旋機能が低いと、せっかく下半身で大きな力を発揮しても、ボールを後方にポジショニング出来ないので、下敷きのしなりが小さくなってしまいます。これでは下半身の力を腕の加速に活かせません。これが二人に共通する問題です。

ただ、これは野球経験の浅い人には非常に多く見られる問題です。ある程度小さい頃から日常的に腕を加速する動作をしていないと、外旋角度を深く取る事は難しいのです。二人とも、野球部経験がゼロでこれだけのパフォーマンスを発揮出来るのは驚きなのですが、やはり、この辺に、そのマイナス面が出てしまっています。ただ、これだけ気持ちよく体が動いてくれているので、肩関節がもっと動くようになれば全然違うと思います。

野球部経験者の場合、投げた後に傾くなとか矯正を加えられている場合が多いので、実はあまり体が気持ちよく動かない場合が多いのです。その辺は趣味でやって来た人の方が自由に体を使えるので気持ちよく体が動くようです。

話を元に戻しますと、二人とも、この投球腕の外旋角度が足りずに、ボールを後方にポジショニング出来ないので「悪い意味で」体とボールが同時に出て来てしまっています。それは体幹部が下敷きでは無く、一枚の硬直した板のようになっている事を意味します。

「悪い意味で」と書いたのは、パンチャーはスインガーと違って停止慣性力でボールを後方に残すこと自体に意味が有るメカニズムではありませんので、パンチャーと比べると「体とボールが極めて同時に近いタイミングで出て来る」のです。これはパンチャーのバッティングでヘッドの出が早いのと同じ事です。

例えばジョニー•クエトのフォームでも藤川球児とかダルビッシュ有のフォームに比べると「体とボールが同時」の感じが強いでしょう。腕のしなりと言うより、体全体で押し出すように投げています。
http://www.youtube.com/watch?v=GSfJrwuAxUk&feature=plcp

ただ、そういうパンチャーの特性を差し引いても、JHETTさんもチワワさんも、もう少し肩が外旋して、ボールを後方にポジショニングする形を作れた方が良いと言う事です。

それにはまず、一にも二にも肩関節の可動域を広げて行く事です。これは地道で根気のいる作業になりますが、上達のためのど真ん中を行く取り組みだと考えてください。

腕回しでも、下の動画くらい、スムーズに肩が回るようになってください。


その他、バット外旋から始まる一連の肩ストレッチやシャドウボールを握ってのシャドウピッチングが効果的です。最も効果的なのは、シャドウピッチングや、実際のスローイングで腕を加速する事で、それが出来ない時にストレッチをやってください。前述しましたがオートマチックステップドリルも腕を多く振れるので良いでしょう。

継続してやると、少しづつ良くなっていきます。2日3日思い切りやって1日休んで次の日やってみると動きが良くなってるのが実感出来たりします。そういうふうにして、長期的に取り組んで行く事が大切です。

二人に共通する問題については以上です。

まとめると、後ろ脚股関節の割れから絞りの動作と、肩の柔軟性を向上させる事が重要だと言う事です。

次からは個別に分析していきます。