2013年5月24日金曜日

林さん進化の記録2



実戦を繰り返している中でのスイングだけ有って、シャープさを感じます。

この最初の置きティーのスイングが硬式木製バットで実現出来ればプロレベルでしょう。ただ、こうして軽いバットを振っている時のスイングの良さを見ると、やはり以下の二点の重要性を痛感します。

1)バットを軽く感じるためにパワーを付ける事。
2)軽いバット(特に細身でミドルバランス)を使用する事。

です。体のパワーを付けた上で、軽いバットを思い切り振ってこそ、この打法の良さ、真価を発揮出来る事が良く解る置きティーの動画です。

もちろんバットを軽くする事で、そのぶんだけ飛距離は犠牲になりますが、スイング自体はフルスイングです。軽いバットでフルスイングし、芯を少々外してもヒットに出来るように強く打つ。そういうバッティングスタイルだと投手のレベルが高くても対応しやすいし、またそういうスタイルのための打法です。

では早速具体的な技術論について気が付いた事などを書きます。

1)バットの重さによるスイングの違い

この前に「メジャーの左打者と林さんのスイングの比較」と言うテーマの動画をアップしましたが、そこでメジャーの打者と林さんの違いとして最も大きいと思われるのが、スイングにおける肩甲骨の動きです。

メジャーの打者はスイングの中で肩甲骨が大きく動いています。上方回転、下方回転の動きも有りますが、それよりも胸郭の上を肩甲骨がスライドする動き、つまり内転や外転です。メジャーの打者はスイングにおける回転運動を、この肩甲骨の動きで行なっている割合が高いと言えます。一方林さんの場合、スイングにおける回転運動を体幹部そのものの回転に依存する割合が高いようです。

ジェマイル・ウィークス
セス・スミス


プリンス・フィルダーのこのフォロースルーなどは、肩甲骨が大きく動いているスイングの典型的だと言えます。

そこで下の動画ですが、これは硬式木製バットとソフトボール3号バットを使用した時のスイングの比較です。

硬式木製バットの時の方が体幹が大きく回転しています。大きく回転しているから良いと言うよりも、むしろ過剰に回転していると言った方が良いと思います。一方、ソフトボール3号バットの場合だと、体幹の回転は小さめに抑えられています。

これは恐らく、硬式木製バットの方が重いので、肩周り、つまり肩甲骨と胸郭の間の筋肉が緊張しているからでしょう。筋肉が緊張しているから肩甲骨が動かないのでそのぶんを体幹の回転で補っているということです。一方、ソフトボール3号バットの場合だと肩甲骨周辺の筋肉がリラックスしているので、肩甲骨の動きがよくなるため、体幹をそれほど回転させる必要が無くなるわけです。

そのため、ソフトボールバットの時は巻き戻しが強く出ています。これは体幹部の回転が止まって、肩甲骨が胸郭上をスライドする動きで上半身がねじられているからでしょう。バットの出方が硬式木製の方が横振りになっていて、ソフトボールバットの方は縦軌道で出ているのも、体幹部の回転を使っているか、肩甲骨の動きを使っているかの違いが出る所です。

一方、下の写真は2011年の夏頃にミズノの短いバット(830g)を振った時の動画ですが、メジャーリーガーのスイングによく似ており、肩甲骨が大きく動いています。具体的には縦軌道の振り出しで、フォロースルーでは肩甲骨が胸郭の周囲を大きく動くので背番号が見えるくらいに体がねじれています。(もちろんバットが短く軽いので、インパクトまでにボトムハンドの引きが起こりにくいので縦軌道でバットが出る。そして、フォロースルーでは残っていた肩甲骨が一気に回るので上半身が大きくねじれると言う事も言えます。)

つまり、メジャーの打者はパワーが有るので、肩甲骨周辺の筋肉をリラックスさせる事が出来ているから、スイングで肩甲骨が大きく動くと言う事です。もちろん、肩甲骨の可動域や、骨格の形の良さも重要です。しかし、ソフトボールバットや短いバットを振っているときのフォーム(メジャーの打者とそんなに変わらない)を見る限り、簡単に言うとパワーの違いが一番大きな原因では無いかと思います。

写真)メジャーの打者同様、体幹の回転が止まって肩甲骨が大きく動くので、体が大きく捻られるフィニッシュの形。

ですから、もちろんパワーを付けるために重いバットを振る事は重要なのですが、それと同様に軽いバットを振って動きを良くしていく事も考えた方が良いです。

この場合の軽いバットと言うのは、塩ビバットのように無負荷に近いものでは有りません。何故かと言うと少しは重さが有った方が腕の筋肉が捻られたり、バットの重さでバットが残って筋肉が引き伸されたりする効果が期待出来るからです。(塩ビバットを振る練習は、それはそれで意味が有りますが、この場合は違うと言う事です。)

重さとしては少年野球の低学年用くらいのものが良いと思います。長さも短いバットです。短い事によって構えで最大限、筋肉が緩んでくれるからです。これを重いバットを振る練習との組み合わせで振ると良いでしょう。そして林さんの場合、そうしたバットを振ってほしいもうひとつの意味が有ります。写真を見る限りミズノのバットでも事足りそうなものなのですが、それよりも軽いバットを振ってほしい理由が有ると言う事です。それが次の(2)「オートマチックステップの精度」と言うテーマです。

(2)オートマチックステップの精度

最近の林さんのオートマチックステップの動きをみていると脚が高く挙り過ぎていたり、膝が内に入っていたりと、少し雑になっています。もう少し地面にまとわりつくように粘りっけの有る挙り方をしながら、最後の瞬間にスパッと挙り、一瞬で着地する感じになった方が良いです。

そして、そういう場合と言うのは大抵、体の表面的な筋肉(アウターマッスル)が優位に働いていたり、腕や上半身の筋肉が力んでいる場合が多いのです。つまり(1)の問題と共通するのですが、やはり現時点での林さんのパワーと硬式木製バットの重さの比率の関係で、どうしても上半身の筋肉が緊張してしまうわけです。

そういった緊張が無くなると、もっと体の芯の筋肉の力が使えて、筋肉も体幹の中心部から末端部へと連鎖的に収縮するようになります。そうなると、ステップの動きはもちろん、体の回転やスイングといった全ての動きに「粘り気」が出て来ます。単純にしなやかさと言っても良いですが、それよりももっと力強い感覚で、体の中心部から末端部にブワッと力の波が伝達して行くような感じです。丁度、下の動画の最初に出て来るカルロス・リーのような感じですね。

もっともカルロス・リーの場合は生来的なパワーがそれを可能にさせているわけですが、こうした境地を目指す場合に重要になるのは「重いバットを振ってパワーを付ける事」と「軽いバットを振って良い動き、良い筋肉の働きを体に憶えさせる」と言った二通りの練習をすることです。

その上で、オートマチックステップの動きを良くするためには「(35)オートマチックステップスイング」と「(23)揺らぎストップスイング」の練習内容が適応します。

特に「揺らぎストップスイング」では説明の文章に書いてあるように、全身をリラックスさせて自分の体重を地面に落とし込んで地に脚が着いた状態(反動で浮く前)から振るのですが、そこから始動する時に浮かび上がるのでは無く、むしろ振りながら自分の体がドリルになったように地面に潜り込んで行く、埋まって行くくらいのイメージ(あくまでもイメージ)で、一度、軽いバットを振ってみて下さい。(バットを持たなくても良いです)ステップの良い感じが掴みやすいと思います。

ただ上記のイメージを持つと不必要な意識のぶんだけ不必要な力みも生まれるので、何回かやって感じが掴めたら、後は「体重を地面に落とし込んで地に脚が着いた状態から振る。振る時はあくまで一瞬で振り抜く一点に集中する」と言う方法で振って下さい。いずれにしても「地に脚が付く」状態だとハムストリングスが効いて来るので、反対側の腸腰筋が引き伸されてステップで使いやすくなります。やや外旋気味で挙るオートマチックステップ特有の形は腸腰筋が働いた結果です。そのために「揺らぎストップスイング」が効果的だと言う事です。

この練習でも軽いバットを使う事で構えでの筋肉の緊張を無くすと効果的ですし、また構えで体が止まった所で体の中心軸が決まると、体の芯からの力が使えるようになります。筋肉が緊張していない状態で体の心からの力が使えると、体の中心部から末端部にブワッと力の波が伝達して行くような感じの動きになるわけです。こうした練習を軽いバットを使って行なう事によって、筋肉に良い働きを憶えさせる事が非常に重要です。

打撃は確かにバットと言う重い棒を振るので筋肉の力が必要になります。骨格の構造と物理の法則を上手く使えば筋肉の力はいらない。。と言う事はありません。しかし、それと同時に、必要最低限の筋力しか無くても、体の中心から末端部へ、連鎖的に上手く力を伝達される事が出来た時に発揮されるパワー。これも侮れないほど大きな物があります。細身なのに豪速球を投げる投手はそれが出来ていると言う事です。こうした意味での「パワー」を向上させる事も、単純に筋力を向上させる事と同じように重要で効果的だと言う事です。

これは林さんだけでは無く山下さんにも、と言うよりも硬式レベルで野球をやっている打者はそういう場合が多いと思いますが、900g前後の硬式バットから700g台の軟式、600グラム台、500グラム台の少年野球用バット。。このくらいまではバットの軽さに応じてスイングスピードがどんどん速くなっていきます。しかし、それ以上さらに軽くしていった時、思いのほかスイングスピードが速くなってこないのです。このような打者は鉄バットのような重いバットを振ると、見事に腕だけで振る感じになってしまう特徴が有ります。ただ一般的にはそういう打者の方が多いようです。

500gくらいまでのバットのように、ある程度の重さが有ると、バットの重さを触媒として、体の表面的な大きな筋肉が刺激を受けて活性化(多くの筋繊維がONの状態になる)する事で、そうした筋肉の力を使いやすくなるからスイングスピードが挙るのでしょう。しかし、これはいわゆる「アウターマッスル優位型の加速様式」です。そして、そうした体の使い方に慣れ切ってしまうと、そういうメカニズムでしかスイングスピードを挙げる事が出来なくなるので、あまりに軽いバットだと思うように速く振る事が出来なくなるわれです。

一方、バットの重さを触媒としなくても、体の中心から末端部への力の伝達が完全であれば、塩ビバットのような極端な軽いバットでも速く振れるようになります。そうした体の使い方、筋肉の働きを常に保存した上での筋力強化でなければならないと言う事です。

そして、真に筋力が付いた上で、そういう体の使い方が出来るようになると、軽いバットを振った後に普通のバットが重く感じても、それがプラスに働くような形でバットが速く振れます。その反対で重いバットをブンブン振って普通のバットが驚くほど軽く感じられても、思ったほどスイングスピードが挙らない事もあります。

上記のような意味で、林さんのスイングにもまだまだ、軽いバットを振る事で改善される余地があると言うか、新たに筋力を付けなくても、今の筋力の範囲で眠っている資源を掘り起こしてやるだけで、スイングスピードが向上する余地が残っていると言う事です。ですからもちろん重いバットを振る事も重要ですが、軽いバットを振る事も重要だと言う事です。

軽いバットを振る練習では「揺らぎストップスイング」のように一回一回、時間をかけて振る事も大事ですが、それと同時に軽いバットは数多く振れるので、その特性を活かして軽いバットを数多く振る日を作っても良いと思います。動きをしなやかにするだけなら、巻き戻して着地した脚を基点に構えを作って振る連続素振りのようなある程度雑な感じでも、充分効果的です。

3)ショートストロークスイングの必要性

課題であった「(ヘッドが寝ていない)適切なトップの角度からヘッドが立ってダウン軌道で振り出されるスイング、ボトムハンドの引きが小さいスイング」も下の写真を見る限り、かなり実現出来るようになってきました。もう後一歩です。

その後一歩は、前脚膝が内に入るクセが完全消失することも重要になります。この動作によりボトムハンドの引きが起こりやすくなり、ボトムハンドの引きが起きるとヘッドが倒れるためです。

また、もう一つのポイントとしては、「(1)ショートストロークスイング」の練習をすることです。この練習は軽いバットで良いので、バットを短く持ち、両手の間隔も僅かに開けます。下の写真を見ると、ショートストロークスイングでは、ややバットが水平に回転し始めるタイミングが早い(ダウンスイングのフェーズが短い)です。

その他、ショートストロークスイングについては山下さんの記事でも書いてありますので、それも参考にしてください。ただ、思えば、今までこのポイントをあまり重視してこなかった気がします。ショートストロークスイングは、ラボでもポイントを抑えれば比較的誰でも良い感じにバットヘッドが立って出るようになりますので、これからやっていくと出来るようになるでしょう。

(3)トップハンドの深さ

これも、同じテーマで山下さんの記事に書いています。ただ、林さんの場合は右投げ左打ちと言う事で、この問題はより大きなテーマだと言えます。投球腕では無い方の腕は肩関節の外旋が浅くなるためです。ですから、その柔軟性を獲得するために左腕の機能を高めていかなければなりません。これは右投げ左打ちの選手にとっては永遠のテーマになると同時に、それが右投げ左打ちの大変な所です。

そこで、今回は大胸筋と広背筋のストレッチを紹介します。(これはスローイングの時にまたやりますが)肩関節の強力な内旋筋である大胸筋や広背筋が硬くなってしまうと外旋可動域が小さくなるので、これらの筋肉の柔軟性をキープする事が大切です。バット外旋と共に行なって行くと良いでしょう。特に重いバットを振ったりすると、トップハンド側の大胸筋、広背筋は硬化を起こしやすくなりますから、これらの筋肉をストレッチして柔軟に保っておく事が大切です。

以下の4種目は右投げ左打ちの選手の左腕には必須種目です。順番的には「バット外旋」「大胸筋ストレッチ」「広背筋ストレッチ」「腕回し」の順番が良いでしょう。バット外旋を最初にやって腕回しを最後にやる事が大切です。

外旋&外転 広背筋ストレッチ


水平伸展&外旋 大胸筋ストレッチ


バット外旋 (立花龍司 TCA理論肩編 より)


腕回し


(4)両脚のライン

構えを見ると、まだ両脚のラインが不安定です。両方膝が開いていたり、前脚股関節が割れていなかったりする事が有ります。この辺がもっと安定してくると構えも安定してくると思います。

 下の写真では甲子園の構えが一番良いですね。右上は両方割れており、右下は前脚股関節があまり割れていません。左上はまぁまぁ良いです。ただ左下もまだ前脚股関節がイマイチ割れていない感じです。この辺は細かい角度の問題と言うよりも「股関節を割る」と言う事に対する感覚の良さが求められる所です。その感覚が身に付けば、おのずと安定してくるでしょう。

下の写真の練習では2人とも良い感じで出来ているので「(8)両脚ライン作りスイング」の内容を練習すると、良くなるでしょう。下図のイメージです。

(5)黒人パワー

特に始動時に発揮される下半身の力と言うポイントでモノを言う「黒人パワー」ですが、これ(始動時の力)は最初の方は林さんの方が強かったですが、最近では山下さんの方が強くなりつつあります。ただ、始動時の力については、黒人化トレーニングを積んでいても、構えで上半身が緊張していると、思うように力が発揮出来ないので、一概にトレーニングの問題だけとは言い切れないものも有ります。

そしてもちろん黒人パワーは打撃のパワーにも大きく影響します。特に林さんの場合、まだシーズン中ですので、スイングが崩れやすい上半身トレーニングよりも、スイングに影響が出にくい下半身、体幹部のトレーニングの方が無難ではあります。そうした事も考えてメニューを決めた方が良いでしょう。

また、黒人パワーについては自転車に乗るのと似ている部分が有り、一度身に付けると、思い出すのも早いですし、またスイングの一振り一振りの中でも鍛えられるようになります。そうした意味で特に若い間に重視したいトレーニングです。(ただし、自転車と違うのは一度憶えてもやらないと錆び付いて行く点です。その意味でも、継続して行なう必要があります。継続して行なう事で感覚自体は30代を過ぎても磨かれて来ます。)

ただ、最近の林さんを見ていると、下の写真の投手側から見た姿勢や、腕の形(関節の微妙な捻り具合や可動域から醸し出される雰囲気)がだいぶ良い感じになって来ています。

時代劇に例えると向かい合っただけで相手の剣士に対して「その構え、お主、出来るな」と思わせるようなものになりつつ有ります。まぁ雰囲気が出て来たということですね。そうした意味では身体機能を向上させると言うテーマは着実に成果を挙げて来てると言えます。

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後は、如何に(技術を落とさずに)パワーを付けて行くか、また「この打法による実戦経験を積み重ねて行くか」と言う事が重要になると思います。

今回は以上です。次回はスローイングで、その次が打撃のパワートレーニングと言うテーマにしたいと考えています。