2016年3月5日土曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その2

 ※)まず前提として私には投手経験はありません(汗)ので、以下の内容はあくまでも基本的なメカニクスに限ったものになります。変化球や投手としての戦術にまで介入する者ではありません。「身体に負担なく、ロスなく最大限の力を発揮出来る身体の使い方」という観点から書いていこうと思います。

ピッチングの脚挙げは十把一絡げに語られる事が多いですが、実際には色んなタイプが有り、それぞれに特徴が違います。特に「重心移動の発生のさせ方」が変わって来ます。

元々、ピッチングでは下図のように、前脚を挙げると地面反力によって、オートマチックに重心移動が始まります。ただ、これだけだと重心移動が始まりにくいので、多くの投手はそこにプラスアルファの動きを加えて、重心移動を始めています。


そこで、まずはいくつかの典型的な前脚の挙げ方を動画で紹介します。ダルビッシュ投手の前脚の挙げ方(動画ラスト)は個人的には「回し込み型」と呼んでいます。

四種類の代表的な前脚の挙げ方 (重心移動の発生のさせかた)
  

腿上げ型
真っすぐ前脚を挙げるだけのフォームで前田健太、平野佳寿、藤川球児などがこのタイプです。図の原理で地面反力だけを使って重心移動を発生させます。身体が前に流れにくく、力のロスは少ない反面、動きが硬くぎごちなくなりやすいので、そこのロスは起こりえます。


ライアン型
骨盤ごと前脚を挙げます。ダイナミックな動きになるので上手く出来れば力は出ますが、バランスを取る事が難しく、不安定になりやすいデメリットが有ります。

振りかぶり型
脚を挙げて来る時に、腰を丸めながら捻りが加わります。捻りが入ると、下図のように後ろ脚股関節が打者方向に移動し、後ろ脚大腿部が斜めになります。斜めになった棒は重力で倒れますが、この原理を利用して重心移動を始めます。
        
 重心移動がすみやかに始まるのでスムーズなフォームになりやすい反面、身体が流れやすい(このページの最後に解説)デメリットが有ります。また腰が丸まってしまい、いわゆる骨盤後傾になるのもデメリットです。(骨盤後傾=ハムストリングスが効かず、膝が折れて過剰に重心が低くなる)

回し込み型
振りかぶり型の改良版とも言えます。振りかぶり型から「腰の丸まり」を無くした感じで、捻りを使って後ろ脚の大腿部を斜めにする事で、重心移動を始めます。 
このタイプのメリットはやはり「動きがスムーズになること」ですが、デメリットは回し込みの動きが大きくなり過ぎると、やはり身体が前に流れやすい点で、そうなると軸脚の力が効きにくくなります。また、回し込みが大きくなると、当然、サイドハンドに近くなります。

※)「身体が流れる」という表現について。
下図を見てください。 もし貴方が荷物を押して動かそうとしている時に、前の人が引いてしまうと、押す力が上手く伝わりません。ピッチングでも軸脚からの地面反力で骨盤が押し出される前に、反動等によって骨盤が前に動いてしまうと、これと同じ状態になり、軸脚の力が上手く使い切れません。この事を「身体が流れる」と表現しました。
  
この状態になっているのが、イチローの振り子時代のフォームです。もちろん振り子打法にはメリットも有るのですが、そういうデメリットもまた有ったと言う事です。

振り子の反動で腰の前方移動が先行し、軸脚の力をロスするのが振り子打法のデメリットです。
 

上記のように、ダルビッシュ投手のフォームは回し込み型の脚挙げによって始まり、その事が様々なフォーム上の特徴になっていると考えます。結論から言いますと、その回し込みの動きが大きくなればなるほど、メカニクス上は問題点が大きくなります。身体の芯の部分で必要最低限、回し込みを行う事で重心移動は十分すみやかに始まってくれます。そうする事で、少なくともメカニクス上の問題はかなり軽減されるはずです。

〜その2完〜