2016年3月13日日曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その9

 スクワットの基本である頸骨が立った形は、ハムストリングスで体重を支えていることを意味します。(ハムストリングスによる)股関節伸展の力は頸骨を通じて地面に伝わり、その地面反力で体重を支えるからです。
  

前回は、この形が出来ている例と出来ていない例を動画で挙げましたが、今回は出来ていない例について、なぜそうなってしまうのかということを具体例を挙げて書いて行きます。ヒザが折れてしまうメカニズムとその原因は、以下の例でだいたい網羅されていると思います。

コール•ハメルズ

典型的なケースです。手が身体の前に出過ぎているので、重心が前よりになり、爪先荷重になってヒザが折れています。

スティーブン•ストラスバーグ

構えからヒザを前に出して曲げていることと、手を前に出し過ぎていることが原因です。

バリー•ジト

ストラスバーグと同様、構えでの膝折りと手の位置が原因です。

ジャスティン•バーランダー

珍しいケースで、前脚のヒザを畳み過ぎて、下ろす時にヒザが前に突き出されて、それに連動して軸脚のヒザが折れてます。

藤浪慎太郎 リッキー•ロメロ

藤浪の場合は骨盤の後傾、ロメロの場合は体軸そのものの後傾が原因です。股関節でスクワットすると言うことは股関節が屈曲することを意味しますが、骨盤が後傾しているとそれが出来ません。結果、ヒザ屈曲が主導=ヒザが折れます。


田中将大

手と足が前に出過ぎなのと、軸脚のヒザが内向きに入るのが原因です。試してみると解りやすいですが、内股でスクワットした場合と股関節を割ってスクワットした場合では股関節を割った方がヒザが折れにくくなります。

黒田博樹

田中将大同様に、ヒザが内に入っている例です。

内海哲也 岩隈久志

骨盤を動かさずに腿上げ的に前脚を挙げるタイプは脚を下ろす時に骨盤が動きにくい(股関節が屈曲しにくい)のでヒザ屈曲主導の重心下降(ヒザ折れ)になりやすいです。

前田健太

脚を挙げる時に軸脚のヒザを突っ張らせてしまうと「頸骨で立つ形」が作りにくく、ヒザでカクッと折れやすくなります。

それではここで、「股関節屈曲スクワット」が上手く出来ている例としてCCサバシアの連続写真を挙げます。

CCサバシア

脚を挙げる時に軸脚を突っ張らず、また骨盤ごと前脚を挙上して、下ろす時には前傾しています。さらに手が身体に近いので重心が踵寄りに来るため、頸骨で立つ形が作りやすくなっています。特に動画で見ると、ワインドアップのステップ時に軸脚の頸骨で立つ感じが出来ていることが解ります。(プレートに軸足をセットする時のトンッという感じ)


ダルビッシュ投手の場合、このテーマに関しては良いときもあれば良く無いときも有るという感じで基本的には中間というかMLBでの平均的なレベルだと思いますが、フォームの中でヒザ折れを誘発しやすい要素としては以下の3点が上げられると思います。もちろん、どんな投手にもパフォーマンスによってブレが生じる部分ですが、この点が良くなればもっと球威は出ると思います。


写真の左から書きます。
(1)セットポジションでヒザを曲げる時の角度がヒザスクワットの形になっているので、重心が下がる時にもヒザスクワットが出やすくなります。
(2)グラブ腕が前に出る傾向があるので重心が爪先寄りになりやすく、それがヒザスクワットを誘発する可能性があります。この動きは捻りで肩が入り過ぎると出やすいでしょう。
(3)捻りが深くなって、それにともなってヒップファーストが大きくなり過ぎ、体軸の前傾が深くなり過ぎると、骨盤が後傾し、ヒザスクワットが出やすくなります。(骨盤ごと脚を挙げた場合の骨盤後傾は下ろす時に反動で戻りますが、振りかぶり型のケースと同様、このような脊柱角度が原因となる骨盤後傾は戻りません。)

補足:多くの場合、上記のような3要素が揃うと、もっとヒザが折れるはずですが、ダルビッシュ投手の場合、そうはなっていないのは(逆説的ですが)捻りを使うフォームだからです。後ろに捻ることで後ろ脚股関節が割れやすくなるので、ヒザが折れにくいのです。この辺は斎藤雅樹投手に似てます。

こうしたことを考えるとやはり多くのフォームには長所短所があるということで、それゆえ、いろんな要素をふまえた上でのその時々の取捨選択が重要になるのだと思います。

その9 完