2016年4月5日火曜日

ダルビッシュ投手フォーム分析 その17

それでは、股関節の斜め回転能力を向上させるストレッチとトレーニングを紹介していきます。まずは基礎的なものからです。基本の5種目から紹介します。

(1)座り割れ絞り体操
 座って左右の股関節の割れと絞りを交互に行います。股関節の斜めラインに沿って脚を動かす事を意識します。両膝が地面につくまできつく捻るパターンと、リズム重視のパターンを両方行います。ポイントは身体の面を出来るだけ左右に振らない事です。腰の横回転ではなく、股関節の斜め回転をする事が重要であるからです。
 


(2)股割りスクワット
写真のように両手を身体の中心で組んで股関節を割ります。見ての通り一般的な股割りとは少し異なります。主な違いは「脊柱を立てずに前傾させる」「爪先はあまり開かない」の二点です。この姿勢を10~20カウントキープします。



下図はポイントをまとめたものです。

1: 股関節を割る事によって大腿骨が開き、その間に骨盤が挟み込まれるように前傾します。この「挟み込まれる感じ」こそが股関節の割りであり、このストレッチの肝です。
2: 土台である骨盤が前傾するため脊柱も前傾し、その脊柱と首の角度を合わせるために顔は下を向きます。 胸椎の後弯の凸アーチを高い位置に形成するように意識します。
3: 膝の自動回旋機能により、膝の屈曲に伴い下腿部が僅かに回内するので爪先はあまり開きません。少しだけ開きます。
4: 足裏の荷重位置は図のように外枠部分になります。この実験くらい大きく股関節を割ると、インエッジ側は少し浮くくらいがむしろ自然です。 (下腿部の回内と足首の側屈が連動するからです)

また、手は写真のように前腕部が回内し、手首が背屈します。肘を浮かせると胸椎が前弯して脊柱が逆S字を描くので肘を浮かさない事が大切です。


(3)絞りストレッチ
写真のように寝そべって片方の股関節を割った状態から思い切り絞ります。図の赤のラインが引き伸ばされるイメージで行います。つまり股関節の斜め回転を意識すると言う事です。


(4)捻り片脚割り体操
股関節の割りには「両方いっぺんに割る」と「捻って片脚だけ割る」の二種類が有ります。基本は両脚ですがピッチングで使うのはもちろん片脚です。ですから投手にとっては非常に重要な身体の使い方です。

写真のように足幅を開いて立ち、方腕(右腕で説明)をぶら下げておきます。そこからその右腕をゴルフのバックスイングの軌道で振り上げる事で身体を捻り、右脚股関節を割ります。連動して逆側の脚では股関節の絞りが起こります。

膝の自動回旋機能が働くので、右脚は下腿部が回内します。そのため爪先はあまり開かないのがポイントです。この下腿部の回内によって逆に大腿部はより回外しやすくなり、股関節が割りやすくなるからです。

また、割る方の脚は「3点支持の外枠荷重」にする事がポイントです。これによって股関節が割れやすくなります。
 

(5)股関節絞り蹴り体操
片方の股関節を思い切り割った状態から絞って地面を蹴る体操です。地面を押し込むように蹴るパターンとジャンプするパターンの2種類が有ります。


割れ絞りジャンプ:捻って片脚を割った形を作ったら、後はほとんど真上にジャンプするだけの意識です。割れた状態からジャンプすると自然に絞りが起こり、身体が逆側にターンします。
割れ絞り地面押し込み:捻って片脚を割った所から、その割った脚で思いっきり地面を押し込みます。ほとんど真下に力を加えるだけの意識で勝手に絞りが起こってくれます。同側の腕も内向きに絞り込む事により、より股関節の絞りが強く起こります。

 
 
股関節の斜め回転を投球動作に取り込むという観点から、いくつかの補足を加えます。

1)股関節の割れと骨盤前傾の関係
股関節を割ると、骨盤が挟み込まれるように前傾しますが、逆に言うと股関節の割れは骨盤の前傾とセットで起こります。ですから、S字骨盤前傾のアスレチックポジションを作る事が非常に重要になります。 また、腸腰筋には骨盤を前傾させる働きと股関節を外旋させる働きがありますから、この筋肉を使う事が股関節を割る上で非常に重要になります。腰を反って腸腰筋をストレッチすると効きが良くなります。つまり「股関節を割る」「骨盤が前傾する」「腸腰筋が効いてハムストリングスが使える」の3つは、常にセットであると言う訳です。ですから「ハムストリングスを使えるフォーム」と「股関節の割れを使えるフォーム」は同じなのです。


この事を確認するために動画のように、腰を反って腸腰筋をストレッチしてから股関節を割ると良いでしょう。腸腰筋は脚を開いて腰を反ると最大限ストレッチされます。


つまりピッチング技術の観点から言うと、立った時に脊柱のS字が効いて骨盤が前傾した姿勢が出来ている事が、股関節を割る上で重要になるわけです。

腸腰筋が効いて、S字骨盤前傾が出来ると、こういう感じの立ち方、姿勢、歩き方、動きになります。


2)割ると下腿部が立つ
後ろ脚股関節が割れると下腿部が立ちます。逆に膝が内に入ると膝スクワットになりやすくなります。ですから、股関節スクワットをする事と、股関節を割る事は相関関係に有ります。これも前述しました「骨盤前傾と股関節の割りの連動」の一環です。


ですから、特に低重心でセットの構えを作る場合などは、足裏を外枠荷重にしておく事も、頸骨の立った股関節スクワットを実現するためのポイントです。もちろん、股関節も割れます。(この足裏の荷重はある程度スクワットダウンしないと出来ないのでワインドステップでは必要ありません)

田中将大投手などは膝が内に入って膝スクワットになってる例です。

後ろ脚股関節が割れて下腿部が立っている例(山口高志、村田兆治、ノーラン•ライアン、クレイグ•キンブレル)


3)爪先の向き
前述して来ましたが、膝の自動回旋機能が働くので股関節が割れても爪先は大きく開きません。しかし閉じると勿論、股関節が割れなくなります。特に低重心セットの場合は股関節が僅かに割れるので爪先は開きやすくなります。一般に良いと言われない事ですが、下の写真くらいで良いと思います。

さらに、重心移動が始まる中で股関節が割れる時、爪先がやや開くの多くの投手に見られる動作で、これは問題は無いと思います。それよりも、股関節が割れる事の方が重要です。ジョシュ•ベケットの後ろ脚にも同じ事が起きてます。


4)前絞り後ろ割りのキープ
下の写真では並進運動の中で「後ろが割れて前が絞られた形」が長くキープされています。前述してきましたが、この辺の「股関節の割れと絞りを上手く使える事」にダルビッシュ投手の大きな長所があります。

これは一般的に言う「開かない意識」と同じだと思いますが、左右の股関節の割れと絞りは連動しているので前脚が絞られていると後ろ脚も割れやすくなります。前脚が振り下ろされる動作は「股関節の屈曲→伸展」ですから、その動作は絞りを伴います。この「前脚の振り下ろしに伴う前脚股関節の僅かな絞り」を上手く利用してやると後ろ脚の割れた状態がキープしやすくなります。その結果、最後の瞬間にズバッと後ろ脚が絞られて鋭い骨盤の回転に繋がるわけです(写真=ベケット)。

特にダルビッシュ投手のような回し込み式の脚挙げの場合、やや外回りに挙げて来た前脚を内向きに回し込んで来た流れの連続で、前脚股関節が絞られた状態を作りやすいので、この形を作る上で有利です。ただ、言うまでもありませんが「開かない」も含めて投球動作の中で一点を強く意識すると全体の流れが不自然になるので、この事もあまり強く意識しない方が良いでしょう。というか、投げている時は意識しないのが理想でしょうね。重心移動が始まった後の部分的動作は(変化球の場合を除き)オートマチックが理想です。なので重心移動が始まるまでに「そうなる」形を作っておく事が重要になります。重心移動が始まった後に意識出来るのは、軸とかバランスとか、力の方向性や力の加減などと言った事だけです。だからプロの技術論はシンプルになりやすいのでしょうね。

この段階での後ろ脚の割れと前脚の絞りの連動は、割れ絞り系のストレッチの感覚と同じです。上手く表現出来ませんが、両脚を畳むような感じです。

両膝の間が引き離されて行くような動きです。


5)投球腕のテークバック
コレに関しては(ダルビッシュ投手の場合)そもそも問題では無いのですが、念のために書いておきます。下の写真のように投球湾が伸びたままのテークバックだと後ろ脚股関節の動きは外転が中心になり、割れてくれません。図のように投球腕と体幹がハの字型に開き、体幹と後ろ脚もハの字型に開く動きになるからです。

チャップマンの連続写真を見てください。(後ろ脚の股関節の割れについて説明する時にこの角度からの写真を使うのは本当はゴマカシになるのですが、イメージが伝わりやすいので使います) このように肘から挙がるテークバックが出来た方が後ろ脚股関節は割れやすくなります。

肘から挙がるテークバックになる事で、ギリギリまで後ろ脚が割れて前脚が絞られた形を保つ事がやりやすくなります。
 下の写真のシーンで、図のようなメカニズムが働くためです。

この動きを身体に馴染ませるトレーニングが有るのですが、それは次回紹介します。

その17 完